広島地方裁判所 昭和32年(行)23号 判決 1966年5月16日
山口県萩市大字土度四〇〇番地
原告
松原定雄
右訴訟代理人弁護士
秋山光明
同
中村勝次
広島市基町一番地
被告
広島国税局
長堀聡夫
右指定代理人
広島法務局訟務部長
川本権祐
広島法務局訟務部付検事
鴨井孝之
広島法務局法務事官
中田武夫
大蔵事務官
中本兼三
右当事者間の昭和三二年(行)第二三号青色申告審査決定無効確認等請求事件について、当裁判所ほ次のとおり判決する。
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用ほ、原告の負担とする。
事実
一、原告の請求の趣旨、これに対する被告の答弁、原告の請求の原因これに対する被告の答弁および主張、被告の主張に対する原告の答弁はすべて別紙記載のとおりである。
二、証拠関係
原告訴訟代理人は、甲第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一、二、第一〇号証の一、二、第一二、一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一、二、第一六、一七号証を提出し、証人山根信太郎、同三戸仁三郎、同林良雄、同今崎味作、同松野豊、同大野文子、同土肥憲の各証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めると述べた。
被告指定代理人は、乙第一ないし第八号証、第一〇号証、第一一号証の一、二、第一二号証一ないし三、第一三ないし二三号証、第二四号証の一ないし五、第二五号証、第二六号証の一、二、第二八ないし第三〇号証、第三一号証の一ないし三、第三二号証、第三三号証の一、二、第三四号証の一、二、第三五号証を提出し、証人佐伯廉、同折居初儀、同竹本実の各証言を援用し、甲第三号証第六号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立を認めると述べた。
理由
一、原告が、昭和二五年以来、所得税の申告につき萩税務署長から青色申告書提出の承認を受けていたこと、同税務署長は昭和三二年七月一日付で右甲告書提出の承認を昭和二九年一月一日まで遡及して取消す旨の処分をしたこと、原告は右処分に対し昭和三二年七月五日同税務署長に再調査の請求をしたが、同年八月一二日棄却されたこと原告は同年八月一四日被告に対し右処分に対する審査請求をしたが、被告は同年一一月二九日付でこれを棄却し右決定通知書がその頃、原告に到達したことはいずれも当事者間に争いがない。
そこでまず、萩税務署長がした青色申告の承認取消処分が違法か否かを判断することとし、以下被告の主張事実を順次検討する。
二、以下各項番号は、別紙第二項「被告の主張」欄の各項番号と一致するものである。
(一)(1) 相互掛金は必ずしも営業に関係ある出費ではないから、右出費を家事費として店主貸に記載しても違法とはいえないところ、成立に争いのない甲第一号証の二と原告本人尋問の結果を総合すると、本項二五、〇〇〇円の出費が記帳脱漏されているとは認められない。
(2) 本項の出金につき原告ほ、すべて帳簿に記載してあると主張するところ、成立に争いのない甲第七号証の一、二(旅館部出納帳)、甲第八号証の一、二(建材部出納帳)には、確かに原告の指摘するとおりの記載がある。しかしながら、右記帳の日付ほ一月一六日付を除きすべて真実の決済日と相違しており、しかも真実の決算日より前の日付のものと後の日付のものがある。その上、記帳金額と当座預金の出金額が一致せず、これについて原告は、一部現金で一部小切手で支払つたためであると主張するけれども原告本人尋問の結果によれば、原告自身認めているように右弁解事実ほ単なる想像にすぎないのである。原告の主張が真実だとしても、その事実は右各出納帳のみでほ確知し得ないものであり右帳簿ほ金銭出納帳の役を果していない、と言うべきである。
(3) 原告は、本項松原マタ名義の定期積金ほ営業に関係ない収入を預入したものと主張する。しかしながら右積金は定期に五万円宛預入されているのに、原告の主張するところは、松原マタが郵便貯金を解約したもの三万円、頼母子の満期になつたもの一〇万円、不要の家具等の売却金五万円、家賃収入二万円をもつて預入したというのであり、両者の結び付きは疑わしく、また原告本人尋問の結果によると、訴外松原マタは、原告の事で旅館部の仕事をする以外他に収入を得ていなかつたこと(旅館部における所得はすべて原告名義で記帳される)が認められ、右各事実から推認すると、少くとも右定期積金の一部は争業所得(客の祝儀チツプを含む)から預入されたと認められる。
(4) 証人林良雄の証言及び原告本人尋問の結果によると、本項取引につき原告は、萩警察署長の依頼により単に名義貸をしたにすぎないとの事実が認められ、記帳もれではない。
(5) 成立に争いのない甲第七、八号証には、原告の指摘する記載があるが、前記(3)項におけると同様、日付、金額か相違し、帳簿上からは当該出金がはたして原告主張の出金であるか確知し得ない。
(6) 本項中、原告の有限会社双葉商会が振出したものと主張する部分は、成立に争いのない甲第一〇号証の一、二(双葉商会出納帳)により認められる。その余の部分も成立に争いのない甲第七、八号証により記帳もれとは認められないが、前記(3)、(5)項と同様、大部分につき日付が相違している。
(7) 証人今崎味作、同松野豊の各証言と原告本人尋問の結果により、原告は昭和二九年三月頃手持株を一〇万円で売却したこと、その頃頼母子五万円を受取つたことが認められ、右事実から右各金員をもつて本項所得税を支払つたものと推認でき、帳簿の脱漏は認められない。
(8) 原告本人尋問の結果によると、本項借入金は、返済期日に西日本相互銀行において、原告の右銀行に対する定期預金債権と相殺して決済したので記帳者が知らなかつたため、記帳漏れになつたものと認められるが、原告としては、相当期間内には右事実を発見し得たはずであり、当然補正記帳すべきであつた。
(二)(1) 原告は、石州江津瓦協同組合に対する買掛金につき八六三、〇四一円の架空計上を認め、右計上は昭和二八年中に右買掛金が支払済となつたのに記載が漏れ、昭和二九年度に操越されたために架空計上の形になつたが昭和二九年度の問題ではないから本件承認取消の理由にならないと主張する。
しかしながら原告主張のように各買掛金が昭和二八年以前に支払われ、その時に記載漏れとなつたものであつたとしても、支払済買掛金を繰越しとして昭和二九年度の帳簿に記載した以上昭和二九年度の帳簿に不実の記載があると言うべく、昭和二九年度の青色申告承認取消の理由となるのは当然である。
各架空計上の金額は多額であつて、原告において容易に発見し得べきものであり、何らの処置もとらず繰越計上するが如きは取引の仮装を疑われてもやむを得ない。
(2) 成立に争のない乙第九号証と成立に争いのない甲第八号証、甲第一四号証とを対照すると上邑商店との取引につき記帳脱漏しているとは認められない。
(3) 原告の旅館部出納帳(甲第七号証)昭和二九年一月三〇日付、支払金額三五、七三二円のうち二〇、〇〇〇円が田辺商店への支払分であるとの主張は、成立に争いのない甲第一五号証の一により認められ、田辺商店帳簿(乙第一〇号証)との原告帳簿との差額は六、一四一円と認められる。原告本人尋問の結果によれば原告が自家消費した酒類の代金支払は家計費より支出し、店主貸として記載したもので、記原脱漏とは認め難い。
(4) 原告本人尋問の結果によると、他からの借入を広島相互銀行からの借入として記入したものであると認められるが、このような記載は虚偽の記載であることには違いなく、借入を仮装したとはいえないとしても、帳簿全体の真実性を疑われてもやねを得ない。
(5) 成立に争いのない甲第一六、一七号証と原告本人尋問の結果によると、本項歩戻金は、その都度原告に支払われるものでなく、徳山曹株式会社が保証金として別途積立てていたものと認められ、記帳漏れを原告の責に帰すのは酷である。
三、以上の各認定事実を基礎として、原告の帳簿書類が所得税法第二六条の三第一〇項に定める青色申告書提出承認の取消要件に該当するものであるか否かにつき案ずるに、
まず原告が備え付ける金銭出納簿は、同法第二六条の三第三項に基づく命令(所得税法施行細則一一条)に準拠していないと認められる。すなわち各施行細則第一一条によると青色申告者は現金の出納に関する事項につき、取引の年月日、出納先取金額並びに日々の残高を整然かつ明りように記載しなければならないのに、原告の金銭出納簿は、前項で指摘したとおり、取引年月日、出納先、事由等の記載が全く不明確な上、手形、小切手による銀行を通じての取引を現金による取引と同じに扱つて記載しているため、日々の現金有高が帳簿上全くわからない状態である。
原告は、原告の帳簿は、昭和二八年国税庁告示第四号にいわゆる簡易簿記であるから、各のような記帳も違法ではないと主張するが、右告示第四号によると簡易簿記による青色申告者については、当座預金の預入、引出に関する事項、手形上の債権、債務に関する事項等の記載帳簿の省略を認め、また売掛金、買掛金に関する事項等につき簡易の記載方法を許しているが、現金出納に関する事項については、本来の帳簿と全く同じものを要求し、何の特則も認めていない。けだし金銭出納簿は各種帳簿の基本をなすものだからである。
青色申告制度は、営業につき法令所定の方式に従つて記帳された書類及びこれに基づき決算される計算書類が真の取引の結果を示し、正確に利益を算出したものとしてこれに信頼をおくという理念に基づいているのであるから原告の備付ける金銭出納簿のように不正確な記帳がなされている場合には、これのみをもつてすでに青色申告承認の取消理由となる。さらに原告の帳簿には、例えば前項(二)(1)で指摘したような多額の買掛金の架空計上、同(二)(4)で指摘したような虚偽の記載等があり、これらが脱税の目的で行なわれたものではないとしても、原告の帳簿書類の記載全体についてその真実性を疑うに足る不実の事実があると認められてもいたしかたい。
そうすると萩税務署長が所得税法第二六条の三第一〇項に基づいて行なつた本件取消処分は適法なものというべく、又取消権の濫用とも認められないから、原告の右処分取消の請求は理由がない。
四、次に被告のした審査請求棄却決定取消請求につき案ずるに、萩税務署長がした原処分に、何ら違法な点がないこと前記認定のとおりであるから、仮に審査決定の理由附記が不備であるとしても、これを理由に審査決定を取消すことは意味がないものといわねばならない。(最判昭和三七年一二月二六日集一六―一二―二五五七参照)従がつて原告の右請求も、理由なきことに帰する。
よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 雑賀飛竜 裁判官 河村直樹 裁判長裁判官原田博司は転勤のため署名捺印できない。裁判官 雑賀飛竜)
別紙
原告 松原定雄
(請求の越旨)
一、萩税務署長が昭和三二年七月一日付でした原告に対する青色申告書提出承認の取消処分は、之を取消す。
二、被告が昭和三二年一一月二九日付でした原告に対する青色申告の承認取消に関する審査決定を取消す。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
(請求の原因)
一、原告は昭和二五年以来、所得税の申告につき、萩税務署長から青色申告書提出の承認を受け、納税していたが、同三二年七月一日同税務署長から同二九年一月一日まで遡及して右申告書提出の承認を取消す旨の通知を受けたので、同三二年七月五日同税務署長に再調査の請求をしたところ、同年八月一二日同税務署長にこれを棄却された。そこで原告は同年四月一四日被告に対し審査請求をしたが、被告は同年一一月二九日、「原告の帳簿書類を審査すると取引の一部を隠蔽又は仮装した記載があり、かつ原始記録の保存がない。」という理由でこれを棄却し、右決定通知書がその頃原告に到達した。
二、しかしながら右審査決定には次のような違法がある。
(1) 所得税法第四九条第六項によれば審査の請求を棄却する決定には理由を附記しなければならないのに右審査決定には理由が附記されていない。なるほど右審査決定には「原告の帳簿書類を審査すると取引の一部を隠蔽又は仮装した記載があり、かつ原始記録の保存がない」旨記載されているけれども、それは単に所得税法第二六条の三第一〇項の条文の一部を引写したのみであつて何等具体的な内容の記載がない。審査決定に理由の附記を必要とするのは、審査決定の公正を保障するとともに審査請求者をして訴訟を提起すべきかどうかについて考慮させ、訴を提起した場合においては事実上及び法律上の争点を明確にし、攻撃防禦の方法を整えさせ、無用な争訟を避け又は訴訟の円滑な進行を計ろうとすることにあるのに右審査決定の理由の記載では、原告において何を理由に青色申告の承認を取消されたのか全く不明である。この点において右審査決定は違法である。
(2) 原告は帳簿の記載に際し、取引を隠蔽又は仮装したことはなく、又原始記録を完全に保存しているから、被告の右審査決定及び萩税務署長がした本件青色申告承認取消処分は違法である。
金二五、〇〇〇円については営業に関係のない家事費から支出したので記帳しなかつたのである。
(注、以下、旅館部出納帳は昭和二九年度旅館部出納帳、建材部出納帳とは自昭和二七年一二月至同二九年一二月建材部出納帳を指す)
旅館部出納帳二頁二二行目(昭和二九年一月一六日付)に記載してある。
建材部出納帳一〇七頁一一行目(昭和二九年一月一六日付)の一〇、四六一円に含まれている。
同一〇八頁七行目(昭和二九年一月二五日付)の一〇、〇〇〇円に含まれている。
旅館出納帳八頁二行目(昭和二九年二月一五日付)に記載してある。
同七項九行目(昭和二九年二月一一日付)の一八、〇六四円の中に含まれている。
建材部出納帳一六〇目一五行目(昭和二九年八月一八日付)の四、七四〇円に含まれている、
同一七〇頁二三行目(昭和二九年九月二五日付)の一三、二〇〇円に含まれている。
旅館部出納帳四六頁一四行目(昭和二九年一一月一三日付)の三、八九五円に含まれている。
同四六頁二一行目(昭和二九年一一月一四日付)の六、八二〇円に含まれている。
松原マタが郵便貯金を解約したもの金三〇、〇〇〇円頼母子の満期になつたもの金一〇〇、〇〇〇円、不要の家具・衣類等売却して得た金五〇、〇〇〇円、家賃金収入金二〇、〇〇〇円を家庭用として預金したもので営業と関係がない。
萩警察署長の依頼により名義貸しをしたにすぎず、営業と関係がない。
建材部出納帳一三〇頁七行目(昭和二九年四月二八日付)の五〇、〇〇〇円に含まれている。
同一三三頁七行目(昭和二九年五月四日付)の一〇、八四〇円を受入れた際、釣銭として渡した。
同一七二頁二一行目(昭和二九年九月三〇日付)の五〇、〇〇〇円に含まれている。
同一七二頁二一行目(昭和二九年九月三〇日付)の手形を決済したものである。
同一九〇頁二五行目(昭和二九年一二月四日付)の六、〇〇〇円に含まれている。
同一九八頁一四行目(昭和二九年一二月二七日付)の六〇、〇〇〇円に含まれている。
有限会社双葉商会が振出したものである。
二一、四五〇円が正当で建材部出納帳一三三頁二四行目(昭和二九年五月一一日付)に記載してある。
同一三二頁一三行目(昭和二九年五月四日付)一三三頁二三行目(昭和二九年五月一一日付)に一〇〇、〇〇〇円と一五〇、〇〇〇円に分けて記載してある。
右会社の振出したものである。
旅館部出納帳二四頁三行目(昭和二九年六月五日付)に記載してある。
右会社の振出したものである。
建材部出納帳一四七頁二二行目(昭和二九年七月二日付)に記載してある。
右会社の振出したものである。
右同
旅館部出納帳三七頁一六行目(昭和二九年九月一〇日付)に記載してある。
建材部出納帳一六五頁五行目(昭和二九年九月三日付)に記載してある。
右会社の振出したものである。
建材部出納帳一九九頁五行目(昭和二九年一二月二八日付)に記載してある。
右会社の振出したものである。
建材部出納帳一七八頁一七行目(昭和二九年一〇月二四日付)に記載してある。
右会社の振出したものである。
旅館部出納帳五三頁二五行目(昭和二九年一二月三〇日付)に記載してある。
手持株を処分した代金一〇〇、〇〇〇円、家事費から掛込んだ頼母子金五〇、〇〇〇円をもつて支払つたもので記帳していない。
西日本相互銀行へ昭和二八年一一月預入れた定期預金を担保に借入れたもので、満期に銀行が決済したが、記帳者が知らなかつたものである。
昭和二八年大蔵省令第二四号、並に国税庁告示第四号により簡易簿記制が設けられたが、青色申告者は必ずしも、所得税法施行細則第一一条に規定に準拠しなくても、簡略化された簿記の方法、並に記載事項によることができ、預金を現金とみなして記帳しても差支なく、現に一般に右のような記帳方法が用いられているのであるから違法ではない。
被告主張の二(一)(3)の金二五〇、〇〇〇円は営業と無関係であるからこれを除外すべきであり、これを除くと赤字になるようなことはない。
昭和二九年中の仕入金額は金一、五五五、四四九円、買掛金残高は金九〇五、六六〇円が正しく、残高中金八六三、〇四一円は昭和二八年中に支払済であるが誤つて記入洩れとなつて繰越された関係上昭和二九年一月一日、及び同年一二月末において同額だけ多くなつているのである。
建材部出納帳一六〇頁二三行目(昭和二九年八月二〇日付)に記載してある。
売掛元帳(自昭が二七年一月至同三〇年一〇月)の四二一頁一一行目、三三行目に記載してある。
原告の帳簿金一八二、六一〇円とあるのは金二〇二、六一〇円が正当で、田辺商店帳簿との差額六、一四一円は自家消費のため家計費より支出したものである。
原告は田辺商店から仕入れを次のとおり記帳している。
(1) 旅館部出納帳四頁五行目(昭和二九年一月三〇日付)三五、七三二円のうち二〇、〇〇〇円
(2) 同一一頁一八行目(昭和二九年三月三日付)三〇、〇〇〇円
(3) 同一五頁八行目(昭和二九年三月三一日付)七五、一五六円のうち二四、七〇〇円
(4) 同一九頁七行目(昭和二九年四月三〇日付)一五、三九五円
(5) 同二五頁五行目(昭和二九年六月一八日付)一〇、〇〇〇円
(6) 同二七頁五行目(昭和二九年六月三〇日付)二〇、〇〇〇円
(7) 同三八頁一九行目(昭和二九年九月二一日付)一五、〇〇〇円
(8) 同四二頁三行目(昭和二九年一〇月一一日付)一〇、〇〇〇円
(9) 同四七頁二行目(昭和二九年一一月一六日付)一六、五八〇円
(10) 同四八頁一一行目(昭和二九年一一月二八日付)二、六五〇円
(11) 同五四頁一七行目(昭和二九年一二月三一日付)一四、四三五円
合計 金二〇二、六一〇円
原告の知人から借入れたものであるが、貸主が名前の出るのを嫌つたため、相互銀行からの借入れとして記入したものである。
歩戻金一六、七二七円は取引の保証金として会社が別途積立て、取引を解約するまで支払がない関係上、現金の授受もなく又計算内容もその都度通知されていないため、記帳者が知らなかつたのである。
仮に原告の帳簿に不備があるとしても青色申告制度の趣旨にかんがみ、些細なかしを理由として青色申告の承認を取消すことはできない。
被告 広島国税局長
(請求の越旨に対する答弁)
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
(被告の答弁)
この項は認める。
二、争う。
(1)
(イ) 所得税法が審査決定通知書に理由の付記を要するとした趣旨はそのことによつて審査決定の公正と正確を期するためであるから附記理由についてもできるだけ具体的に詳細かつ明確に記載されることが望ましいことでたあるが、理由の表示方法に関して特別の規定は存しないのであるから附記すべき理由としそは審査決定をするに至つた実質的根拠がうかがわれる程度に記載されていれば足りるものというべきであつて、結論に到達する論理的経過を順をおつて詳細に記載することは、必要でないものと解するのが相当である。ところで右決定には理由として、「あなたの帳簿書類を審査しますと、取引の二部を隠ぺい、および仮装した記載があり、かつ原始記録の保存がないので、その帳簿の全体について真実性を疑われますので……」と記載されており、これによれば被告において原告の備付帳簿を調査した結果、所得税法第二六条の三第一〇項に該当する隠ぺい仮装の事実があつたこと、および同法施行細則第一七条第一項第二号・第三号の規定に違反して原始記録(証拠書類)の保存がされていなかつたことを指摘しているのであるから、通常人の判断によれば決定の実質的根拠をうかがうに足りるし、殊に原告は原処分、再調査決定、審査決定の右段階で調査を受けた際に原告の帳簿の記載脱漏事実および原告の注文書・送り状・領収証・伝票等の原始記録を保存していなかつた事実を具体的に詳細に調査官から指摘を受けているのであるから本件審査決定の付記理由によつて原処分を相当として維持するにいたつた判断の根拠を十分理解できたはずである。
(ロ) 審査決定の理由不備は審査決定の取消事由にはならない。
審査決定の取消訴訟においては、裁判所は行政庁の附した決定理由の当否を審査するのではなく、決定そのものの適否を審査するのであるから、審査決定を受けたものも、審査請求のとき主張しなかつた攻撃方法を訴訟の手続において主張することを妨げないし、行政庁においてもまた審査決定に附した理由以外の理由を主張して審査決定が維持さるべきことを主張して妨げない。それ故、審査決定処分の当否を審理する本訴においては審査決定の結論が違法か否かにもとずいてこれを維持すべきか否かを決すべきであつて、審査決定に附記した理由が不備であるということだけで審査決定を取消すことはできない。
この項は争う。
(被告の主張)
一、被告は原告の審査請求に対して広島国税局協議団をして、原告の帳簿書類を調査させた結果、後述のとおり所得税法第二六条の三第一〇項に該当する事実があつたので、萩税務署長が青色申告書提出の承認を取消した処分及び再調査の請求を棄却した処分は相当であり、原告の審査請求の理由がないものと認め、所得税法第四九条によりこれを棄却した。
二、所得税法第二六条の三第一〇項に該当する事実
(一) 原告の帳簿書類が所得税法第二六条の三第二項による命令(所得税法施行細則第一一条)に準拠していない事実
(1) 原告は広島相互銀行萩支店に相互掛金として、昭和二九年中に金二二五、〇〇〇円を預入しているにかかわらず、原告の帳簿には無尽勘定として金二〇、〇〇〇円記載しているのみで金二五、〇〇〇円脱漏している。
(2) 広島相互銀行萩支店における原告名義の当座預金のうち、左記出金については金銭出納簿その他の関係帳簿に記載がない。
<省略>
(注、日付は小切手の決済日)
(3) 原告は萩信用金庫に定期積金として、松原マタ名義で昭和二九年中に左記のとおり預入しているにかかわらず、いずれの帳簿にも記載されていない。
<省略>
(4) 原告は萩信用金広と次のような取引事実があるのにかかわらずこれに関する記帳がない。
<省略>
(5) 原告は山口銀行萩支店における当座預金中左記出金について記帳していない。
<省略>
(注、日付は小切手の振出日)
(6) 原告は仕入代金等の支払について約束手形を振出しているが、右約束手形の決済にあたり左記のとおり、現金決済を行つているにかかわらず、これらに関する記帳をしていない。
<省略>
(7) 原告は昭和二八年分所得税を昭和二九年三月一五日金一〇〇、〇〇〇円、同年四月二〇日金五〇、〇〇〇円を支払つているにかかわらず、いずれの帳簿にもこれについて記載していない。
(8) 原告の帳簿に記載してある西日本相互銀行萩支店からの借入金六五、〇〇〇円は昭和二九年一一月五日返済しているのに右の記帳がない。
(9) 所得税法施行細則第一一条によれば青色申告の承認を受けた者は現金出納に関する事項についいては取引年月日、出納先及び金額、並びに日々の残高を、又当座預金の預入及び引出に関する事項については、預金の口座別に取引の年月日、事由、支払先及び金額を明記しなければならないと規定しているが、原告の帳簿の記載はこれに準拠していない。原告の帳簿には預金勘定を設けておらず、従つて日々の預金残高は帳簿上確認することができない。又原告の帳簿には原告が手持現金を銀行に預入れた場合、及び銀行より預金を引出し、手持現金とした場合に、その預入れ、引出しの状況について何等記帳されていないし、銀行を通じての取引は現金扱として記帳されている。従つて原告の金銭出納簿は現金と預金を混合記載した帳簿であつて、純然たる金銭出納簿ではなく、日々の現金有高を明らかにしていない。原告の帳簿によつては帳簿上の現金の有高と現実の手持ち現金とが一致するかどうか、又取引事実を正確に記載しているかどうかの検証は全く不能であつて、金銭出納簿としての使命を遂げていない。国税庁告示第四号によれば事業所得が一〇〇万円を超えない者については、簡易な簿記方法により得ることを規定しているけれども、帳簿自体より日々の残高が確認できず、日々の取引の記帳の正確性について検証できないような記帳方法を許しているものではない。
原告は右のような記帳をしているから帳簿上の金銭残高が赤字になるという現実には存在し得ない結果となつており原告の帳簿は信用できない。
(二) 原告の帳簿書類の記載事項の全体について、その真実性を疑うに足りる不実の記載があると認められる事実
(1) 原告は原告の商品仕入先である石州江津瓦協同組合(原告は石川瓦の仕入については右組合の名称だけ用いているが、実際の取引先は同組合、有限会社丸八窯業所、及び有限会社青山窯業所の三ケ所である)に対する仕入金額及び買掛金について、次のように期首昭和二九年一月一日において金五四八、七三五円、期末同年一二月末現在において金八二三、〇三一円の買掛金の架空計上が行われており、このような多額の架空買掛金の存在する事実は単なる記帳の誤りによるものではなく、取引の全部又は一部について仮装又は隠蔽した結果生じたものである。
(A) 原告帳簿(ハンドヤ商会分)
昭和二九年一月一日買掛金残高 八六三、〇四一円
同年中仕入金額 一、六〇五、四四九円
同年中支払金額 一、五一二、八三〇円
同年一二月末中買掛金残高 九五五、六六〇円
(B) 石州江津瓦協同組合帳簿(三ケ所合計分)
昭和二九年一月一日売掛金残高 三一四、三〇六円
同年中売上金額 一、五〇二、五五七円
同年中収入金額 一、六八四、二三四円
同和末売掛金残高 一三二、六二九円
(C) 原告の架空計上金額((A)―(B))
昭和二九年一月一日現在 五四八、七三五円
同年中仕入金額 一〇二、八九二円
同年中支払金額 一七一、四〇四円
同年一二月末現在 八二三、〇三一円
(2) 原告は原告の商品の仕入先であり、又商品の売先である上邑商店に対する取引について、左の事実があるのにもかかわらず、これらの取引を記帳せず、隠蔽している。
(A) 原告が上邑商店より仕入た金額
<省略>
(B) 原告が上邑商店に対して売つた金額
<省略>
合計 二九、一〇〇円
(3) 原告は酒類の仕入先である田辺商店より酒類を左記のとおり金二〇八、七五一円仕入れているにかかわらず、帳簿には一八二、六一〇円しか記入せず、差額二六、一四一円に相当する取引及びそれに対応する売上額を隠蔽している。
<省略>
差 二六、一四一円
(4) 原告帳簿(松竹荘分)には広島相互銀行萩支店より、昭和二九年二月一一日借入金五〇、〇〇〇円並びこれに対する支払利息金九六〇円の取引事実の記載があるが、右取引の事実はない。従つて右借入金は架空借入で仮装して計上したものである。
(5) 原告は原告の仕入先である徳山曹達株式会社より歩戻金について帳簿に記載せず隠蔽している。すなわち原告はセメントを右会社から仕入れているのであるが、このセメント取引量1トンに対して金二五円の歩戻金が、右会社より原告に支払われるのにかかわらず、これについて記帳していない。その状況は次表のとおりである。
歩戻金明細表
<省略>
三、仮に原告の主張どおりであるとすれば、二、(一)(2)23567、同(5)45、同(6)710111315については、原告の帳簿は真の事実を忠実に表現しているものとはいえず、原告の帳簿は全く措信できないものである。
四、以上のとおりであるから本件処分には取消事由となるようなかしは存しない。